Memories of Fire
「では、私からの申し入れを受け入れていただけると解釈しても? バルトルト様に一任されているのなら、必然と私が相手になりますよ」
「……そうね。それがお父様の望む政略結婚なら、仕方ないわ。マリーもうるさいし」

 ソフィーは大きくため息を吐き出してクラウスを振り返る。

 すぐ下の妹、マリーは従兄弟のエルマーと恋仲にある。年中べったりでこちらもうんざりするくらいだ。

 先日マリーが成人を迎えた途端、ソフィーに早く結婚しろとせがむようになり、更にうるさくなった二人。ソフィーが結婚したら、すぐに自分たちもそうするつもりらしい。

「政略結婚、ですか……わかりました。良いでしょう。ですが、私にとって、貴女との結婚はあくまで恋愛の延長にあるということを、覚えておいてください」

 クラウスはそう言うと、恭しく腰を折った。

「色好いお返事が聞けて大変嬉しいです。ソフィー様はお疲れのようですし、今日はこれで失礼します」

 永遠に失礼してくれればいいのに……なんて、王女らしからぬ暴言をなんとか呑み込んで、ソフィーはスカートを摘んで軽く礼をする。

 それからすぐに身体の向きを変えて階段を上り始めた。

 なんだかクラウスのペースに流された気がして癪だが、前向きに考えることにしよう。このまま結婚を渋る様子を見せても、結局バルトルトが誰かを宛がうだけのこと。

 それならば、多少なりともソフィーの知っているクラウスは悪い相手ではないだろう。条件も問題ない。あの嫌な視線を除けば……だが。

 ソフィーははぁっとため息を吐きつつ、自室に入り、ベッドに身体を投げ出した。

 シャワーを浴びたり、着替えたり、やることはあるのにとても疲れて動きたくない。ソフィーは現実から目を逸らすかの如く目を瞑り、そのまま夢の世界へと迷い込んだのだった。
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