ヴァイス・プレジデント番外編

「すごい、一発で通ったの」

「そう、誰もがあきらめ気味だったんだけどね。杉さんが来るはずだったのが、急きょヤマトさんに変わって」



助かったわー、と紀子が笑う。

よかったねえ、と改めて言ってから、私はターキーのサンドイッチにかぶりついた。


ソフトウェア部門である紀子とネットワーク部門である私は、同じ開発とはいえ、仕事上のつきあいはまったくない。

だけど勤務体系すら異なっていた秘書時代とは違って、頻繁にこうしてランチに出たり、飲みに出たりすることができる。

お守りが効いたのか、例のサンフランシスコの彼とも遠距離恋愛を続けている彼女は、クリスマスをどこで過ごすかが目下の懸案事項だった。



「うちの会社にしちゃ遊んでるというか、飛んでる企画だからさ。杉さんだと、ちょっと危ないねって言ってたんだ」

「ヤマトさんは、勝算さえあれば、そういうチャレンジ嫌いじゃないもんね」



分厚い陶器のカップに入ったミネストローネを飲みながら、そうそう、と紀子がうなずく。

少し冒険した企画が、なんと企画会議ですんなり可決されたらしい。


元から経営畑の杉さんは、根拠の薄い目標利益なんかが企画書に書いてあった日には、にっこり笑っておとといおいで、だ。

対してヤマトさんは、「絶対いける」という開発陣の意気込みが、時にセオリーを超えて売り上げにつながることを知っている。

そしてそれを、なるべく尊重したいと思っている。



「でも、制作が少しでも遅れかけたり、企画を実現できなくなりそうになった場合は、その時点で開発を中止させるよって」

「まあ、そうなるよね」



思考錯誤が許される製品は、限られている。

スパッと最低限の期間でつくって、とにかく売り上げる。

それが求められる製品も、ある。

ヤマトさんが厳しいわけではなく、当然の判断だ。



「全部の案件、ヤマトさんが決裁者だったらいいのに。早く社長にならないかな」



会社近くのサンドイッチチェーン店なので、どこに誰がいるかわからないんだから、と私は慌てて紀子をたしなめた。

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