ヴァイス・プレジデント番外編
春も終わりに近づき、初夏の匂いが感じられる、いい季節。

この世を去るのに、こんな素敵な時期を選んだ父は、なかなか趣味がいいと変な感想を抱いた。


外出するとすぐに疲れてしまう母を、先にタクシーに乗せて帰し、私は少し墓前で時間を過ごすことにした。

高台にある霊園からは、霊峰、富士を望むことができる。

数日降り続いた雨が去って、空気の済んでいる今日は、一面に広がる墓地から青い空を背景に、特別美しい姿を見ることができた。


生前から、父はここに眠ることを望んでいた。

彼の両親の骨も、少しだけれど一緒に眠っている。


その交渉を、秋田まで行ってしてきた時のことを思い出した。

ねえお父さん、あなたには言ってなかったけれど、おじいちゃんとおばあちゃんの骨はね、あなたとお母さんが亡くなった時、秋田に返すことになってるの。

それを条件に、もらってきたのよ。


だってふたりとも他界したなら、骨なんてどこにあろうが問題じゃなくなるでしょう?

私も懸命に交渉したけれど、所詮代理で、それが限界だったの。

何年後になるかわからないけれど、きっと返却するのも、私の役目になるんでしょうね。


シンプルな御影石の墓石の前に、持ってきた小振りのひまわりを添えて、水を新しくした。

父が好きだったのを、かろうじて覚えていた花だ。

それを知った時、私たち一家はロシアに住んでいた。

国花であるひまわりを、私が学校の課題で絵に描いた時、父がとても喜んだのを花屋で思い出したのだった。


黒い服が太陽の光を吸収して、暑いくらい。

標高も高いここは、紫外線も少し強いに違いない。

そんなくだらないことをぼんやりと考えながら手を合わせていると、ふいに、背後から声がした。



「俺も、会いたかったな」


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