ヴァイス・プレジデント番外編

「ほんと、情けなくて、最低なんだけどね」



俺、と自嘲するような声が言う。

その切ない響きに耳をふさぎたくなるのを、必死にこらえていると。


久良子ちゃん、と呼ばれた。


身体がばらばらになるかと思った。

かつて何年もそう呼び続けてくれた彼の声は、今も変わらず優しく、甘く。

けれど会えなかった月日のぶん、少しだけ他人行儀に響き、どこか苦い。


どう反応したらいいのかわからず、身を固くしていると、もう一度呼ばれる。


やめて、という思いで立ち上がり。

振り返ったことを後悔した。


喪服に身を包んだ彼は、ポケットに両手を入れて。

明るい色の髪を風に揺らしながら、背の高いその姿を、綺麗な青空の下にさらしている。



「こんな、俺なんだけどさ」



私のほうが高い位置にいるせいで、少し見あげるようにしてくるその顔は、何ひとつ変わらずに、だけど確かに、傷を負っていた。

昔、絶え間なく私を愛しんでくれた瞳は、相変わらず深い優しさをたたえて。

困ったように少し眉をひそめて、それでも柔らかく微笑んで。


懐かしい、愛しすぎる姿。

涙がこぼれるのを抑えられない。



「好きだって言っても、許してくれる?」




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