許嫁な二人

 今朝は、高校生の兄がパソコンからプリントアウトしてくれた
 戦闘機の写真を、遊び仲間に見せるつもりだったのに、
 その計画はあっけなくつぶれてしまった。

 思い出すと腹がたつから、透はもやもやした気持ちをふきとばす
 つもりで、いつもに増して勢いをつけて道場の床をぞうきんがけ
 する。



   「よし、こんなもんだろ。」



 少しあがった息を整えながら、ぞうきんやバケツを片付けて
 再びランドセルをしょった透が、玄関でくつを履いていると
 後ろから母親がやってきて、声をかけた。



   「いつもより遅くなってるじゃない、唯ちゃん待たせちゃ
    だめでしょう。」



 そう言われて、祖父に言われているもうひとつの言いつけを
 思い出して、透は母親に見えないよう顔をしかめた。



   「行ってきます!」



 母親の小言は無視して、大声をだすと



   「いってらっしゃい。」



 といつもの母親の声が聞こえた。
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