許嫁な二人

 でも、話をするチャンスかもしれない。

 無視されても仕方がないと唯は思っていたが、
 普通に会話できればそれに越した事はない。

 さんざん躊躇って、それでもなんとか勇気を振り絞って



   「あ、あの、、、。」



 と声をかけたところで、別の方向から声がした。



   「やあ、早いんだな。」



 見ると、同じ学校のジャージに身を包んだ1年生の男子が
 立っている。

 その彼は、つかつかと唯の方へ歩いてくると、さっと手を
 差し出した。



   「俺、諸井大輔、よろしく。」



 突然のことで唯は戸惑ったが、差し出された手を無視する訳にも
 いかず、そっと自分も手を差し出した。



   「碓氷 唯です。」



 勢いよく唯の手をとった諸井は、それをぶんぶん振りながら



   「知ってる、碓氷の姫だろ。」



 と言った。
< 36 / 164 >

この作品をシェア

pagetop