早春譜
 校長室に正樹と美紀がいた。
結婚式を予定通り卒業式の後に執り行うこととした報告だった。


「小さい頃から不思議でした。なぜこんなに父が好きなのかが解らずに。ただ『大きくなったらパパのお嫁さんになる』って言っていました。今思うと、全部産みの母が言わしていたのですね。それが望みのようでしたから」
美紀は智恵の書いた日記を胸に抱きしめていた。


「私母の分も幸せになります。申し訳ありませんが、兄達のこと、よろしくお願い致します」
深々と頭を下げる美紀。

それを見守る正樹。


「任せなさい!」
校長先生は胸を叩いた。




 同じ頃、淳一も詩織との結婚を決意していた。
実は淳一はこの時、校長先生と正樹と美紀の会話を聞いてしまったのだ。




 『校長、良からぬことを画策しましたね』

長尾美紀と正樹親子の結婚式を妨害させまいと、秀樹と直樹と大を校長室に呼ぼうとしたことを逆手に取ろうとしたのだ。


それで強請を掛けて、詩織との結婚を認めさせようとしていたのだ。




 淳一はあの日、帰国した父親の前にいた。
それはあることを確かめるためだった。


そう、詩織の母親との関係だった。
もし詩織が父親の本当の娘だったらこの恋を終わらせようとしていたのだ。




 『親父、詩織の本当の父親は一体誰なんだ?』
淳一はやっと言った。


『なんだ藪から棒に』

父親にしてみたら意表を突く発言だったのだろう。
その証拠に目を白黒させていた。


『俺は一体誰の子供なんだ?』
淳一は父に詰めよった。


『お願いだ教えてくれ。俺には好きな人がいる。その人と結婚出来るかどうかの瀬戸際なんだ』


『もしかしたらその相手は?』


『ああ、そうだよ。詩織だよ。入学式の最中に一目惚れしたんだ。兄妹だとも知らずに』

淳一の目から大量の涙が溢れ出した。




 『バカだな』
照れ隠しなのか、父親はそう言うと淳一を抱き締めた。


『何時の間にこんなにでっかくなって……』


『な、何だよ』


『図体ばかりだな。子供のように泣くなんて』


『何だよ、説明にもなっていないじゃないか』


『結論から先に言う、お前は詩織さんと結婚出来る。あの娘は俺の子供じゃない。前の旦那の子供だよ。だからその涙を拭きなさい』


『それじゃ俺達は』


『結婚出来るってさっき言った。それだけじゃ満足出来ないか?』

父の言葉に淳一は目を輝かせた。
そして吹っ切れたように大きく頷いた。
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