早春譜
 「全て私のせいです。二人が校庭にいるのを確認しました。配慮不足でした」

病院の待合室で、警察官の事情徴収に答える淳一を見ていた。
詩織は淳一に『責任は俺が取るから』と、経緯を話すことを止められていたのだった。


(あれっ? 先生勘違いしている。あの時一緒にいたのは直美じゃなかったはずなのに……)


詩織は知らなかった。淳一は詩織が気になって、暫く様子を眺めていたことを……
だから淳一の発言はまんざら嘘ではなかったのだ。


事故を引き起こした当事者は詩織だった。
それなのに、淳一は優しかった。


(ごめんなさい先生。私がちゃんと確認さえすればこんなことにならなかったのに……)

詩織は意気消沈したまま俯いた。


(私はあの時先生に声を掛けた。先生が帰ることを知っていたはずなのに……)

やはり責任は自分にあると詩織は思った。


(長尾美紀さんといた時、確かに工藤先生は私の近くを通った。きっとあれは駐車場へ行く途中だったんだ)

本当は泣きたい。泣いてでも警察の人に聞いてもらいたい。
詩織は心の中で地団駄を踏んでいた。


実は詩織は母から、自転車の並列走行中に起こった事故を聞いていたのだ。


ハンドルが噛み合った時、詩織は倒れた。
幸い足を強打しただけで済んだけど、詩織は母は友人を亡くしていたのだった。




 診察の結果、骨折していた。日帰り手術でボルトを埋め込むことになった。
その方が治りが早いようだ。


詩織は看護師より必要な品物のリストを渡された。
その中に大人用の紙オムツも入っていた。


「準備が整い次第手術しますので、其処に書いてある物を支度なされてお待ちください」

整形外科の先生はいとも簡単に言った。




 骨折の日帰り手術には全身麻酔が必要で、体の中の水分が抜けるのだ。
と言えば聞こえはいいけど、言い換えれば尿だったのだ。


入院患者のように尿道に管を入れる訳にいかない。
だから紙オムツが必要なのだ。


詩織は薬局でオムツを購入してくるように工藤淳一に頼んだ。
自分で買いにいけない以上仕方ない。
そう思うことにした。
本当は恥ずかしい。
それでも淳一に頼むしかなかったのだった。


(こんな時に母がいてくれたら……)
そう思いながらも頭を振った。
あんなに何時も注意されていたに、守れなかったからだった。


詩織の母はテレビ局に努めていて、取材でカルフォルニアに出張させられていたのだった。


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