季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
私を抱きしめながら少し考え込んでいた早苗さんが、耳元に唇を寄せた。

「やっぱりうちに連れて帰ろうかな…。ぬいぐるみみたいに朱里を抱きしめて寝たい。抱きしめるだけじゃ済まなくなるけど…。」

「いや…あの…早苗さん?」

「いい歳して嫉妬なんかしてみっともないけどね…俺は朱里が思ってるほど大人じゃないよ。朱里の事になると余裕なくなるみたいだ。今だって気持ちを抑えるの必死。」

早苗さんは少し苦笑いを浮かべて、私から手を離した。

「送り狼にならないうちに帰ろうかな…。部屋にいる狼にも気を付けるんだよ。」

「ハイ。あの…今日は楽しかったです。ありがとうございました。」

「また…誘ってもいいかな?」

私がうなずくと、早苗さんは私の頭を撫で、おでこに軽くキスをした。

「じゃあ…また明日。」

「…おやすみなさい。」


車を降りて軽く手を振り、見えなくなるまで見送った。

指先でおでこにそっと触れてみる。

まだ早苗さんの唇の感触が残ってる…。

強引に唇にキスされるより、ずっとドキドキする。

あの唇が、私の唇に…肌に触れたら…どんな気持ちになるんだろう?



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