季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
「それとも…俺と一緒に来るか?」

「順平と?なんで?」

「バーカ、冗談だ。また夢で陽平に怒られるのはイヤだからな。あいつ、ああ見えて怒ると怖いんだよ。」

陽平の怒った顔は記憶にない。

昔は陽平も順平と兄弟喧嘩なんかしたのかな。

「ふふ…そうなんだ。私の前では怒った事なかったから意外だな。いつも笑ってた。」

「怒る必要ないくらい幸せだったんだろ。オマエが幸せになれんなら陽平も喜ぶんじゃね?マスターんとこ行けば?」

相変わらず口は悪いけど、順平の言葉がいつになく優しい。

「うん…。少し考える。なんかここ数ヶ月でいろいろありすぎて…。」

「考えてるうちに歳食って逃げられんぞ。…ってかさ、オマエが出ていかないと、俺もここ出られないだろ?出てかないとまた襲うぞ。」

「ひどいな…順平は…。」

そんな事はもうしないだろうけど…。

これは順平なりの優しさなのかな?

「さっさと荷物まとめて出てけ。」

「天の邪鬼…。」

小声でボソッと呟くと、順平がギロリと私をにらんだ。

「なんか言ったか?」

「なーんにも。」

順平とはいろいろあったけど、今となっては昔からの友人のような、不思議な感覚だ。

順平は順平なりに、私のためを思って背中を押してくれているんだと思う。

「できるだけ早く出るようにするから。」

「おぅ、とっとと出てけよ。」

順平と離れるのは少し寂しいような気もする。

だけどもう、順平は陽平の身代わりをする必要なんてない。

順平は順平だ。

順平には順平の生きる道がある。

私も前に進まなくちゃ。




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