季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く
やっぱり。

志穂がいたら大変な事になっていただろうな。

想像すると少し気持ちいいかも。

「ホントに壮介のやつ、一発くらい殴ってやれば良かったかな。」

私が笑いながらそう言うと、志穂は不機嫌そうに眉間にシワを寄せた。

「それで朱里はそのまま泣き寝入りなの?」

「泣き寝入り…と言えばそうなのかも知れないけど…下らない事で争うの面倒だったから。」

「下らなくないでしょ?」

「うーん…。どうかな。」

私は志穂に、壮介との結婚が破談になった事を両親や親戚に隠し、偽壮介を用意して嘘をつこうとした事を話した。

志穂は私の話を聞きながら、時々首をかしげ険しい顔をした。

「朱里、その考え方おかしいよ。朱里には何も非はないのに、なんで嘘ついてまでそうしようと思ったの?」

「そうかもね。でもね…“あの子は結婚式の直前に男に逃げられたんだよ”って陰で言われるの、私には耐えられなかったんだ。だから私は自分を守ろうとしたの。壮介は私のそういう、世間体を気にしすぎるところがイヤだったみたいよ。」

自分で改めて話してみると、私ってバカだなぁと苦笑いがこぼれる。

「それで…結果的にどうなったの?」

「偽壮介のおかげで両親や親戚に嘘をつかずに済んで、丸く収まった。」

「ん…?どういう事?」

志穂はさっぱりわけがわからないと言いたげな顔をしている。



< 89 / 208 >

この作品をシェア

pagetop