とっくに恋だった―壁越しの片想い―
少し接してみれば、その人のパーソナルスペースがどれくらいか、くらいはわかる。
相手が平気で人の気持ちの奥まで踏み込んでくるタイプかどうかを見定めるためにと、他人をよく見るくせがついたのは、中学のころだ。
干渉されるのを防ぐためにっていうのが理由だった。
だから、平沢さんのそれが人よりも広いことにはすぐに気付いていた。
あたりは柔らかいけれど、私と同じタイプだって。
私だったらわかりやすい拒絶の態度をとるところを、平沢さんはへらっと軽い笑みを浮かべ受け流す。
でも、自分の懐に入れるまで、相手を十分すぎるくらいに疑ってかかり距離をとる根っこは一緒だった。
だから……だったんだろうか。
根っこが似ていたから、私は平沢さんを部屋に迎え入れていたんだろうか。
引っ越してきた翌日から始まったお節介を、嫌な顔しながらも最終的には受け取ってきた理由は――。
「さすがに先週の梨元社長の言葉はきつかったか?」
グラスの中のビールをぼんやり見つめていると、隣からそんな声がかけられた。
顔を向けると、木崎さんが心配そうに覗き込んでいたから、「いえ」と首を振る。
今日は、九月の異動者の歓送迎会で、支店からほど近い居酒屋チェーン店にきていた。