とっくに恋だった―壁越しの片想い―



――『本当に大丈夫か心配だから、なにかあったらすぐに言って。
時間とか、いつでも気にしなくていいから』

――『大丈夫です。ありがとうございます』


アパートの通路で、平山さんと鳥山さんと会った翌日、メールでそんなやりとりをした。

本当は、返事をするかしないかで一瞬悩んだけれど、平沢さんは先輩だし、第一なにも悪いことなんてしていないのに無視するのは失礼だ。

ただ、私の気持ちが〝ただの先輩後輩〟っていう枠からはみ出してしまっただけで、平沢さんはなにも悪くないのだから。

とはいえ、気持ちに気付いた以上、このままの関係を続けていくのは苦しい。
だんだんと距離をとっていくのが好ましいと思う。

〝自立したいから〟と言ってあるし、鳥山さんもいる。

平沢さんも、無理に私に構おうともしてこないだろうし、大丈夫だ。うまく、フェードアウトできる。
仕事だって、ちょうど忙しくなってきたし、大丈夫だ。……大丈夫。

そう、自分に言い聞かせるように繰り返し始めて四日が経ったころ。
新しい定期預金の受け入れ開始日を迎えた。

受け入れ期間は、一ヶ月。額面、五十万一口で抽選券が一枚ついてくる。

一ヶ月後に抽選を行い、あたった定期預金の金利が変わる、というものだ。


< 73 / 185 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop