バナナの実 【近未来 ハード SF】
第14章  難破船





■ 第14章 難破船 ■





三泊四日のポイペット、カジノ旅行からプノンペンに戻った辻は、いつもの時間いつものナイトクラブに繰り出した。


EminemのBusinessがかかる薄暗いダンスフロアーで目を凝(こ)らすと、細身で髪の長い女性が、巨大スピーカーの下で踊っていた。


踊り方ですぐに、ニアンだと分かる。

彼は、床に誘導灯でもあるように最短距離を歩き、彼女に近づく。


「ニアン、元気?」


「アウ」

眉間(みけん)にしわを寄せたしかめっ面で、ローリエを入れ損ねたポトプスープに似た愛想のない返事。


辻は、踊っていた彼女の腕を引っ張り、近くの席に座らせた。


「ニアン、なんでそんなに怒っているの?」


「おこってない!」と怒鳴る。


以前の表情とは違い、獲物をを狙うネコ科の肉食動物の目つきだった。


そこへ来た女友達が取巻き会話を始めると、意地悪な悪魔がその本性を隠すように、穏やかで楽しそうな笑顔を振り撒(ま)く。


あぁ、やっぱり、あのこと怒っているんだ・・・。これは、少し距離を置いた方がいいかなあ。


内心そう思った辻は、何も言わずにその場を離れ、外のビリヤード台へ向う。


すると、そこで、ビリヤードをしている真治と久々(ひさびさ)に鉢合わせた。


辻より5歳ほど年上の彼と知り合ったのは約一年前、金メッシュのやすの紹介だった。
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