バナナの実 【近未来 ハード SF】
第20章   見えない壁





■ 第20章 見えない壁 ■






全裸事件の翌晩、病院を退院した辻は、ナイトクラブでヤスや真治らに会い、事件を起こした経緯(いきさつ)から、点滴され個室入院するまでの一部始終を話した。


「これ、点滴の痕(あと)です」と、左腕のそれを見せる辻。


「そっ、それで、警察沙汰にはならなかったの?」

驚いたヤスの乾いた声がどもる。

「ええ、昼間の退院時、同じ警察官が来たんですが、何もお咎(とが)めはなかったです。


笑顔で帰っていた警官の笑顔に、僕が驚いたくらいです」


「血液検査の結果は、どうだったんですか?」

心配そうに森村が訊く。

「何も異常無く、ギャンブルとガンジャは止めるよう医者に忠告されました」と自嘲(じちょう)の笑いを浮かべた。


「ブッ飛んだね。大麻じゃ普通起こらないんだけどねぇ」と、奇怪そうに真治が首を傾げる。


「そうなんですか。まぁ、貴重な体験でした」

辻は、ずいぶん昔の出来事のように答えた。


「でも、そのカジノの話はスゴイねぇ。10億円でしょう。ねぇ、もっさん」

森村に同意を求めるヤスの言葉に、「現実になったら、カジノ版ジェイコム男みたいですよ」と話を持ち上げる。


内輪では、よく株やネット トレードの話で盛り上がり、その名は、株の売買で巨万の資産を築いた代名詞として度々話題にも登場していた。
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