バナナの実 【近未来 ハード SF】
第6章  おとぎの国






■ 第6章 おとぎの国 ■






ポイペットのカジノからプノンペンに戻った辻は、それからカジノにハマっていた。


市内には数十軒の小規模カジノがあり、ほぼ毎日、日中の二、三時間を、至(いた)れり尽(つ)くせりのカジノ場で過ごす。


セイジはというと、残りの滞在をやすや辻らと楽しく過ごし、かねてから予定していたバンコクに一年住む予定でタイへ向かっていった。


彼がバンコクに滞在している間、何度か二人は、連絡を取り合いバンコクで再会も果たす。



「俺も今度、33でさあ。定職につかないでこんな風に遊んでいられるのも、ここバンコクで終わりかなぁって思うよ。あと半年、ここで生活したら帰国して、ちゃんと就職しようと思うんだ」


それが彼の口癖。

今まで避けてきた現実と正面から立ち向かおうとしている彼の姿に、辻は、幾度と無く自分と重ねるのだった。


それ以来、セイジの言葉が喉に刺さった小骨のように、いつまでも辻の中に残っていた。




セイジがバンコクに行ってしまうと辻は、再びやすと時間を過ごすことが多くなった。


プノンペンという自由で鍵の無い牢獄生活はすでに数ヵ月が過ぎ、日常のマンネリ化に退屈という痛みを身体(からだ)の節々(ふしぶし)に覚え始める。


やすの今後の日程を尋ねると、これから陸路でベトナムのサイゴンに入り、友人との約束がてら、食事と気分をリフレッシュさせるのだという。


生活環境を変えたいと思っていた辻は、これはいい機会だとばかりに、サイゴンまでやすに同行することに。


そう決断したのには、もう一つ理由があった。
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