思いがけずロマンチック
2. 王子様と度重なる受難

正式に辞令が交付され、翌日から総務課への異動が決まった。しばらくは営業と総務と秘書の三足のわらじ状態。今は不安しかないけれど、やるしかない。


有田さんのことは『今朝の出勤時に階段でぶつかった』と、織部さんをはじめ営業課の皆へ簡単に説明。千夏さんの身代わりを申し出たことはさほど追及されなかった。
私の営業課での重要性はそんなものだったのかもしれない。

なんだか寂しいけれど、私が決めたことだ。


「千夏のために本当に申し訳ない。こっちの仕事は俺が引き受けるか、困ったことがあったら何でも言ってほしい」


織部さんが沈痛な表情で深々と頭を下げた。駆け付けてくれた千夏さんも目を潤ませて、私が申し訳なく思うほど。


「私こそ相談もせず勝手な行動をしてしまい申し訳ありません、しばらくは面倒掛けると思いますがよろしくお願いします」


一礼して顔を上げたら、書類だけ残された自分の机が目に留まった。
足元には筆記具など身の回りの物だけを詰め込んだ段ボール箱がひとつだけ。これを持って私は総務課への引っ越しするのだ。まるで本当に退職してしまうような複雑な気分になる。


< 26 / 228 >

この作品をシェア

pagetop