【完】ぎゅっとしててね?
連れてこられたのは、
校舎裏の非常階段。



ひとけがない。全くない。
誰か、今すぐ来てくれていいからね。



「……そんなびびんないでよ。落ち込むなぁ」



ははっと慶太くんが笑う。



「だって、さっきの嫌だったでしょ?」


「嫌ー……だった、といえばそうだけど」


「怒ってる?」


「怒ってる」



慶太くんがあたしに歩み寄る。


あたしの背にある手すりを握り、あたしを囲うように閉じ込めた。


……近い。
怒ってる顔すら綺麗だ。とか、思ったあたしの邪な心。



「……ハンセイします」


「嘘だよ。怒ってないよ」



ふっと笑うと、慶太くんの顔がゆっくりと近づいた。



長い睫が下を向く。
アロンの香り。


あたしも思わず目を閉じると、

すぐに、唇に暖かい感触。




「……俺以外見ないで」



低い声があたしに響く。



あたしをまっすぐ見つめる目。
……逸らせない。
硬直、した。





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