強引なカレの甘い束縛


忍さんからのメールに気づいて、それを私に悟られないよう慌てているのだろう。

その予想通りの反応に笑いが顔に浮かぶのを必死でこらえつつ、私は何もなかったかのように表情を作った。

「写真、ちゃんと全部残ってるでしょ? 私、削除どころかロックの解除すらしてないし」

探るように窺い、さらりとそう言うと、これまた予想通り、陽太は「ははっ」と乾いた笑い声をあげた。

「あ、ああ。写真はちゃんと残ってるし、大丈夫だ、うん。これからも会議中の癒しとして大活躍してもらえるな。……えっと、俺、一件電話を入れなきゃいけなかったんだった……。じゃ、また後でな」

スマホに視線を何度も向けながら、陽太は慌てたようにこの場を離れ、足早に部署を出て行こうとした。

その後ろ姿はかなり焦っていて、普段の飄々とした姿とはまったく違っている。

忍さんからのメールが気になっているのだろう。

メールのタイトルにあった『引っ越し』や『地図』という言葉が気になって、どういうことなのかを聞いてみたいけれど、タイミングを掴めないまま取り逃がした気分だ。

そのとき、ちょうど部署を出ようとしていた陽太が振り返り大きな声をあげた。



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