強引なカレの甘い束縛

けれど、こうして仕事に気持ちを集中させて満足している様子を見れば、そんなことどうでもよくなる。

会社が総力をあげるプロジェクトに召集されることは多くの社員が目標としていることであり、会社員として出世していくのならば経験しておくべきものだ。

出世がすべてだとは思わないけど、出世してこそできること、見えることも多いのだ。

役職という後ろ盾があれば、正しいことを貫くのも、間違いを止めることも可能になってくる。

それを実践しているのが大原部長だ。

理不尽な人事に苦労していた大原部長は、いずれ自分が出世をしたならばせめて自分が指導する部下たちには同じ苦労は味あわせたくないと思って昇格していったと聞いている。

その結果、今ではわが社の稼ぎ頭であり花形部署でもある部署で、誰もが納得せざるを得ない仕事のすすめ方を実践している。

部下の異動に関する配慮も、システム開発の講座を私が受講することになったのも、最終的には大原部長の判断によるものだ。

自分の部下が居心地よく仕事をすすめられるように、そして着実に出世していき、いずれ手に入れるであろう役職という力をつかい会社を盛り立てていくようにと。

ある意味長期の計画ではあるけれど、それを実践している大原部長に心酔している陽太にとっても、プロジェクトに召集されるということは、自分が理想とする会社生活には欠かせない大きな希望であっただろうし、それはかなりのプレッシャーに違いない。

だからこそ、せっかくの休日にも拘わらず園田さんと砂川さんに仕事の疑問点を聞いているのだろう。

そして、そんな陽太の気持ちを理解し受けとめてくれるふたりも、素敵な人だなと思う。

そう思うからこそ、今こうしてカウンターでひとり放り出されていても、私は平気でいられるのかもしれない。

仕事だけでなく、何かに集中して結果を出し、それに満足を覚える。

目の前の陽太を見ているだけで、私も満足だ。

陽太を深く理解して、支えてあげたい。

そしてこのままずっと、陽太を見つめていたいと、心の底から願った。





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