きみのために -青い竜の伝説ー
37.重なる想い
ディアナは国王の前にいた。
国王は目を細める。「こちらに来てもらったのは他でもない、
皇子の為、シラー国との紛争地へ出向いてもらえないだろうか。」
ディアナはにこりとほほ笑んだ。
「はい、よろこんで!」
胸もとの青い玉の首飾りが輝いていた。



ディアナは国王から直々に命を受け、アイザックを伴い、シラーとの紛争地へ派遣された。
遠征地へ、不安や恐れよりもディアナの心はフランツ皇子に会える喜びで高鳴っていた。
『やっと会える。とても長い時間を過ごしていた気がする。』



☆☆☆


シラー国との国境付近、エルロイ卿の治める城内は沸いていた。
国王から賜ったマントを身に着けた『救い』が現れたことに、
にらみ合いの続く前線で神経をとがらせていた戦士たちが勝利したように歓喜していた。


わっと湧き上がる声に迎えられ、ディアナは乗りっぱなしだった馬の背から
ようやく足をおろした。
アイザックが手を伸ばし受け止めてくれていたが、
ディアナはそれに頼りかかることなくすぐに身体を起こした。
特別なマントを羽織ったディアナは近寄りがたい存在に見えた。
マントがそれを醸し出す以外に、ディアナ自身の雰囲気が凛として
変わったような、アイザックはそんな気がしていた。


館に入ってきたディアナを見たとき、フランツは目を疑った。
自信に満ちたその瞳は、不安や恐怖で揺れる瞳ではなかった。
青い玉の首飾りが胸元に見える。

フランツはディアナが今すぐとびついて自分の服を脱がせようとすることを
ふと夢に見た気がした。『この場面、どこかで、、』


ディアナもフランツを見て驚いていた。
彼は包帯ひとつ巻いていない。全く元気そのものに見える。
一瞬はっとした表情を浮かべたかと思うと、
服の上からフランツの身体をまさぐり、何かを探す。
それでも見当たらないのか、服を脱がせようと手を動かした。
周りからどっと笑いが溢れた。
多くの兵たちがいる前だったのを忘れていたのだった。

やはり、とフランツはくっくっと笑った。
真っ赤になったディアナの肩を抱いた。

見上げたディアナの胸元に青い石の首飾りが揺れていた。
淡く青い光が強く輝いているようだった。


「みな、聞いてくれ。私の傍に彼女がいれば、もう安心だ。
力が溢れるようだ。我らに勝利を!」
フランツはディアナの身体を抱き上げるつもりでいた。
ディアナの身体をその胸と腕に抱き上げる、と、ディアナがふわっとその手を
フランツの頬に添えるようにした。

花の香りが広がった。
「フランツ皇子に平和と繁栄を。」
そういうとディアナはフランツの頬に口づけをした。

わぁっ・・・!!と歓声が起こる。
救いを我らに!勝利を我らに!口笛や踏み鳴らされる足音、
歓喜の中でフランツはディアナを抱きした。


「本当に・・君にはかなわないよ。アイザックを護衛に置いてきたのに、
国王の後押しを受けてここへ来るなんて。」
フランツはディアナの瞳を見つめた。

「私の腕の中に抱きしめて、誰にも傷つけさせたくないと思っていたのに。」
くすり、と笑いあった。
「きみって人は。」
声が重なった。笑い声が重なる。

「だって、あなたのそばに居たいんですもの。
私には私にできることをしなきゃ。うううん、あなたのためにできるなら、そうしたいの。」

その胸と腕に抱き上げられたディアナは、階段を上るフランツに身体を預けていた。
そっと優しく、求めるように激しく、ふたりは幾度となく唇を合わせた。
何かがはじけたようだった。


重なるくちびる。
そのやわらかな、あたたかな感触。
身体の奥から愛おしい想いが溢れてくるようだった。


離したくない・・
離れたくない・・




数日会えなかっただけなのに、互いの香りがとても懐かしく
愛しかった。抱きしめたいとずっと思っていたような気がした。



「きみを守りたいと思った。私はきみをみくびりすぎていたようだな。」
優しい、からかうような声。フランツ皇子の声。
とくん、とくん、お互いの鼓動が高鳴っている。
「怪我、してるんじゃないの?」
「してないよ。」
まじまじとフランツを見つめるディアナ。

「してない。」ふっと笑うフランツ。
何かが変わったような気がした。
頭からさぁっと霧が晴れるようだった。



とくん、とくん、彼女のか、自分のか、わからない鼓動を聞きながら、
フランツはそっとディアナを自室としている部屋へ運んだ。
部屋に着いた時にはディアナは疲れのためかすっかり眠りに落ちていた。
フランツは苦笑し、穏やかに眠る彼女をベッドに横たえた。

「私のために、危険も顧みず。きみって人は。」
フランツはつぶやいた。胸にあたたかなものを感じていた。
「きみにはかなわないよ。」

ピンク色の頬にそっと口づけをし、部屋を後にした。
青い首飾りはディアナの胸元で静かに輝きを増していた。
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