今、鐘が鳴る
「窓の外、見てみぃ。」
泉さんにそう促され、お布団の敷かれたお部屋の丸い窓辺に近づいた。
そこには八重桜が咲いていた。

「百合子が全然連絡寄越さへんから、普通の桜は終わってしもたわ。これで我慢せぇ。」
泉さんは憮然としてそう言った。

……義理か厄介のような口調だけど、私のワガママを叶えてくれた照れ隠しなのだろう。
胸がいっぱいになった。

「ありがとうございます。」
ホロホロと涙がこぼれた。

「泣くなっちゅうたやん。」
「……うれし涙です。幸せです。それでも、ダメですか?……泉さんの気持ちがうれしいんです。」

泉さんが手を伸ばして、私を抱き寄せた。
どうしよう、本気でうれしい。

「夢みたいです。こんなに……」

それ以上の言葉はいらないらしく、泉さんは強引に私の唇を捉えた。
激しくいやらしい音をたてて、何度も何度もキスを繰り返した。

「失礼します……失礼しました。」
お料理を持ってきてくださった仲居さんが、困ってる。
「そこ並べといて。後で食うわ。」
泉さんはそう言って、襖をピシャッと閉めた。

「そんなに勢いよく閉めたら、傷んでしまいますよ。」
ついそう注意すると、泉さんはにやりと笑った。
「襖のことより、自分のこと心配しぃ。手加減せぇへんで、今日は。」

心臓が激しく高鳴り、身体の奥が甘やかに疼いた。
「……壊されても、いいです。」
心も、身体も。

泉さんは意外と優しくそっと私をお布団に寝かせてくれた。

……見上げると、丸い窓から八重桜が見えた。

「わかった。覚悟しぃや。」

そんな風に言いながらも、泉さんは乱暴には抱かなかった。
激しいけれども、優しかった。
情熱的、という言葉が一番ぴったりかもしれない。
熱い瞳にじっと見つめられ、身体中を感じさせられて、どろどろに溶かされた。

私は愛されている。
そう誤解してしまうほどに、熱を込めて抱かれてしまった。

……誤解なのに。
競走と同じこと……泉さんにとっては一瞬の快楽でしかないのに。

くやしいけど、私は永遠を望んだ。

「このまま……死にたい……」
そんな言葉まで出てしまうぐらい、愛しい刹那。

朦朧とする頭でぼんやりと結実すら望んだ。
「……排卵日前後なんですけど……」
一応そう言ってみた。

「問題ない。俺、パイプカットしてるから。……まさか、百合子、病気持ってへんやろな?」
「……馬鹿。」
ついそう言ってしまったら、泉さんの逆鱗に触れたらしい。
「殺すぞ。」
そう言って、くるりと上下一転。
泉さんは私にのしかかって、私の首を軽く絞めた。

目の裏が赤く燃えた。
まるで八百屋お七のように半鐘が聞こえた気がした。

苦しい……。
咳こむこともなく、私は意識を手放した。
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