君を選んだから
リビングに行くと、嬉しそうな顔で父親がケータイを見せて来た。

画面には兄貴からの素っ気ないメール。

『助教授、決まったよ。』と一言だけ。

それでも、両親は手を取り合って喜んでるんだから、これは立派な親孝行だ。


野生動物の生態を研究しつつ、絶滅種の保護にも力を入れているエラい教授の下で、兄貴は助手として働いている。

身分としては講師で、日々、学生たちと共に研究に励んでいたところ、どうやら遠方の大学からお誘いを受けたらしい。


真面目で几帳面で、努力を怠らないタイプの兄貴は、子供の頃からいろいろな成果を残して来た。

成績もずっと良かったし、自由研究やら絵画やら各種のコンクールでも賞を取ってたし、甘ったれの俺とは違って、自分の頑張りで多方面から評価を得て来た。


その性格が幸いし、大人になって好きなことを仕事にできただけでも、俺からすれば十分尊敬に値する。

だけど、兄貴はさらにその上を行くらしい。


先々週くらいから出ていた話の通りなら、兄貴は今後、沖縄の大学で教鞭を取りながら、離島だの密林だので研究対象と戯れる生活を送るそうだ。

それを希望してたんだから、そりゃあ、本人は嬉しいはずだ。


もちろん、着いて行くんだろうけど、陽奈さんはどう思ってるのかな。

今だって研究を理由にしょっちゅう放っとかれてるのに、知り合いもいないところに連れて行かれるなんて、寂しくないか?


って、まぁ、俺には関係ないけど。

もう、今みたいには会えなくなっちゃうんだ..........

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