エリートな彼と極上オフィス
わっ、そんなこと言っちゃうの。

くしゃくしゃと私の髪を両手でかき回しながら、先輩はじっと私を見つめる。

こんなふうに見下ろされるのが、すごく好きだと気づいた。

少なくとも今、先輩の視界には自分しかいないと実感できるのがいい。



「じゃ、読み上げるだけでいいんで、これ」

「お前も大概しつこいな」

「先輩の進歩のためでもありますし」



ね、と促してみたものの、別に期待していない。

書いただけでここまで照れる先輩に、どだい無理な話だ。


いいですよ、いつか言葉で伝えてくれたら。

それまではこの、文字で十分。


抱きつくと、手に持ったままの紙が、かさりと鳴った。

途中までは、確かに卒業証書だ。

けどそれはほんの冒頭だけで、紙の真ん中には、急いで書いたらしい、慌てた筆跡で、横書きの先輩の字が躍ってる。


ふいに、口で口をすくいあげるように上を向かされて、お互いの唇がはっきりと、それまでより深く絡んだ。

抱き寄せる先輩の手が熱くて、それが嬉しい。

しがみつく手に力を込めたら、紙がするりと逃げて、やがて床に落ちる乾いた音がする。


感覚の隅のほうで、それを聞いた。

同時に、遠慮がちなささやきが唇に届いた。





「俺は、お前のもんだよ」





ずっとだよ。


おや。

できたじゃないですか。


口を合わせたまま笑う、私の頭の中が読めたんだろう。

照れ隠しなのか、イニシアチブを取り返したいのか、先輩のキスはあからさまに濃くなっていく。

ここがどこだか、思い出させてあげたほうがいい気がしないでもない。


そんなにむきにならなくてもいいのに。

私はますます、笑いながら。



先輩から垂れる蜜の甘さに、身を任せた。




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