エリートな彼と極上オフィス

「お前、何買ったの、それ?」

「マウスです、外出用に超小型のが欲しくて」

「新しいやつじゃん、使い心地よかったら教えて」

「なんとこのサイズでサムボタン付きなんですよ」

「マジかよ!」



欲しい、と目を輝かせてから、先輩は中川さんを振り返る。



「お前も少しは、欲しいものの情報を事前に自分で入手しろよ、こんなふうにさ」

「だってどうやったって航のほうが詳しいもん、エキスパートに任せる主義なの、私」

「あ、そ」

「どれを買うか、お昼食べながら考える、行こ」



はいはい、とつきあいよくうなずいて、じゃな、と先輩は私に懐こく手を振った。

死角に入る直前、中川さんが先輩の腕に、さりげなく手を絡めたのが見えた。






「先輩、傘は」

「お、悪い」



月曜の朝、会社への道で見つけた先輩は、小雨が頭や肩を濡らすのに任せていた。

傘を差しかけると、私の手から取り上げて、持ってくれる。



「忘れたんですか?」

「いや、折り畳み入れてんだけどさ、傘って好きじゃなくて、なるべくなら差したくない」

「なんでまた」

「邪魔だから」



わからないでもない。

そう言うだけあって、濡れるのは気にならないらしく、先輩の差す傘は、ほぼ私だけを守っている。



「昨日、ごめんな、中川の奴が」

「あの方とは仲よしなんですか」

「普通。単に同じ路線なんだ」



本気で言っているようだった。

先輩、意外とのんきらしい。



「PCは買えました?」

「いや、結局決めらんなくて、カタログだけ持って帰った。何やってんだかなあ、今時店頭に丸腰で行くって」

「またつきあってあげないとですね」

「来週も空けとけって、もう言われてる」


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