甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

と、羞恥心を持ったのもつかの間で「いだっ」と声があがった。足首に痛みが走ったからだ。

「課長、暴力反対なんですけど」
「お前が昨日、酔っぱらってまた同じとこ捻ったんだろ。そんなに痛むなら、診てもらったほうがいいな。宮野町病院だったら、土曜日でも午前中空いてるし、まだ間に合うだろ」

「でも動かさなきゃ痛くないので大丈夫だと思います」

すっと立ち上がって見せた。痛みはあるけど立てるし、歩くことも出来そうだった。

課長はジッと睨むように見てるので
「月曜日、休まないので安心して下さい」
と念を押す。

「バカ。俺は身体の心配してんだよ」
「湿布貼っておきますので、ご安心を」

仕方ねーなと呟いてから立ち上がり「湿布どこだ?」と私に尋ねる。
「えっと、リビングの……って私、自分で出来るので、本当に大丈夫です」

ゆっくりリビングに向かってみると、思った通り痛みはあるけど歩行に支障はなかった。

湿布を取り出し、ソファーに腰掛け患部に貼る。
ようやく肩の力が抜け、息を吐くと部屋が物凄く荒れていることに気づいた。

漫画やDVDが山積みだし、衣類も脱ぎ捨ててあるし。
私、こんな状態でよく人をあげたな。

テーブルに、読みかけの小説「ひとり日和」が置かれたままで、慌てて手に取る。
タイトルがもっともらしくて、どこかに隠してしまいたくなったけど、今さらか。
課長、ソファーで寝たみたいだから、嫌でも視界に入っていたはず。
って、このタイトルだけで私が男に振られた女だと察知できるわけないか。
< 23 / 333 >

この作品をシェア

pagetop