甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

何足か試着をしてから、
「じゃあ、これ、お願いします」
と彼にお願いすると、レジへと案内された。
お会計中に「あ、あと、もし使ってなかったら、ランニング用のソックスもあったほうがいいですよ」
「あ、そんなのあるんだ」
「はい」
「それ履いてたら足くじかずにすんだかな」
無様な姿を思い出し、後悔が自然と口に出た。
「くじいたんですか?」
「あ、はい。だいぶ前ですけど」
「大事にしてくださいね」
他意のない言葉が嬉しく感じ、袋を受け取る。
「ありがとうございました。お陰で素敵なものが買えました」
お礼を述べて店を出た。明日からのランニングがまた楽しみだ。何か食べて帰ろうかと考えていると
「あ、あの」
少しして先ほどの彼が走って私を追いかけてきた。
「はい」
「すみません、これ、入れ忘れたいみたいで」と小さい袋を手渡された。どうやらソックスを忘れていたようだ。
「私も気づかなくて、すみません。ありがとうございます」
「こちらこそ、すみません」
受け取ると
「僕も走ってるんです」
「え?」
「ランニング、気持ちいいですよね。どこかで会ったら声かけてください」
「あ、はい」
子供のような素直さが伝わってきてつい頷いてしまった。
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