甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

「それで片思いして振られたら、お前どうすんだ? あいつのことだ。もう顔出せないとかそういうことになりかねないだろ。俺は社会人として普通の意識を持ってほしいってことだよ。そういうことができない奴が、急に階段をステップアップしても転がり落ちるだけだ」
「課長だって、階段、踏み外したくせに」と思わず言い返してしまう。
彼女がいるくせに私の家に何もないとはいえ、お泊りしている。私が引きずり込んだことに違いはないから責めるのはお門違いなのだけれど。

「はっ?」
「あっ、いえ、なんでもないです」
「俺がいつ階段を踏み外したんだよ」
「いえ。今日も綺麗なおみ足で順調に階段を昇っております」
「お前、なにか言いたいことあるんだろ」と詰められ、恐い。
もう、いいや。言ってしまおう。隠すほうがおかしい。

「いえ。課長が美人な彼女と夕べ、歩いていたなんて知りません」とそれとなく伝えてみた。たぶんこれだけで察してくれるはずだ。
一瞬、ん?と考えた顔になってから「なんだ」そんなことかと言うように呟いた。

「なんでそれが階段を踏み外すになるんだよ」
「彼女がいるならはっきり言ってくださいよ。私、気づかないで家に泊めてしまったし。勝手に課長の足を引っ張ってましたよ。大丈夫だったんですか? ていうかそういうの隠すタイプでばれてないんですか? それともそれで喧嘩とかになったりしたんですか?」
いろんな事が想像できてしまい、つい多弁になる。

「はあ?」
「はあ? じゃないです。本当にすみませんでした。で、大丈夫だったんですか?」
「お前には関係ねーよ」
どうでもいいと言うように、言い切られてしまい追及できなかった。
< 58 / 333 >

この作品をシェア

pagetop