夢恋・second~その瞳に囚われて~

「黒田が、不穏な動きをしている。お前と理恵子さんの結婚は、一日演じるだけの予定のものだったが、今になって状況は急激に変わってきてるんだ」

父の目を睨むように見る。父は、無表情なまま話を続けた。

「……俺の言いたいことは分かるな?どうか、この状況を救ってもらいたい。拓哉と、理恵子さんに」

分かっていた。こうなることをすべて。
そのために、再び芹香を突き放したのだ。
彼女が俺を求めて手を伸ばしてくるだなんて、願ってもない話だった。ずっと探して、諦めきれなかった、可愛くて大切な芹香。

君のためならば、どんなことでもするつもりでいる。
たとえそれが、二度と君をこの胸に抱けなくなることだとしても。
君と別れることが、君を世間の好奇の目から守ることとなるならば。

思わず『愛してる』と口走った俺を、嘘つきだと言って制してくれた。
その目に涙をいっぱい溜めて。

君は俺がいなくても、きっとまた、誰かに愛される。
俺じゃない、別の誰かに。

まずい。考えすぎて頭が痛い。吐き気さえしそうだ。
どうしても冷静になれない自分が、もどかしい。
それをぐっとこらえ、顔を上げた。

「分かってるよ、父さん。後継者として、やらなくてはいけないことを」

苦しい胸の内を悟られないよう、三人に笑顔を向ける。

心の中で必死に求めているものは、もう俺の手には入らない。

君との再会は、奇跡でも運命でもなかった。
待ち受けていたのは、ただの別れしかなかったのだ。

< 158 / 201 >

この作品をシェア

pagetop