クールな同期が私だけに見せる顔

「あの、省吾。冗談だったら、早くそう言って」

自分から、今の気持ちをしゃべってしまうのもダメだ。

言葉尻をとらえられて、すぐに彼のペースに持っていかれる。

彼は、黙ったまま私を見ている。

冗談でしょうと水を向ければ、乗ってくると思ったのに。

真剣な顔をして、私に誤魔化すタイミングを与えない。

茶化したり、否定もしない。
何でも聞いてくれと、自信たっぷりな営業マンそのものだ。

彼は表情を崩さないまま言う。

「晴夏、冗談で、こんなこと言わないよ」

彼は、本気らしい。
ふざけるつもりも、否定するつもりもないみたいだ。


っていうことは、マジですか?
本気ってことですか?

省吾、ちょっと待って。

私は、悪い冗談を聞いたみたいに頭を振った。

「あんた、自分の言ってる意味わかってるの?」


「分かってるさ、もちろん。晴夏、そんなことより座ったら?」

彼は、チューハイの缶を一つ渡してくれた。

どうしよう。

何か話をしなきゃ。

黙ってると間が持たない。

「省吾って、自分から好きになった事ってある?」

私は、缶のプルタブを引っ張りながら言う。

間が持たないから、適当に質問しただけなんだけど。

失敗だったみたい。

思っても見ない質問をされて、彼は少し驚いてた。
< 47 / 220 >

この作品をシェア

pagetop