クールな同期が私だけに見せる顔


「もちろん。もう、別れたんだもん」

俊介さん。中谷俊介とは、三年前から、付き合いだした。

彼の方から付き合って欲しいと言われて付き合った。

今年の春、彼が仙台に転勤になった。

遠距離を続けるか、別れるかで迷った私は、彼にはついていかずに東京に残ることにした。


『一緒に来ればいいじゃないか』

彼にそう言われたけど、今やってる仕事を辞めて彼についていく決心がつかなかった。

さんざん迷った挙句、『別れて下さい』と彼に伝えた。

私には、遠距離は無理だと思ったからだ。


「あんた、最初っから省吾のこと好きだったでしょう?」

身もふたもない言い方。何とかしてよ。もう。

「決めつけないでよ。そんなはずないでしょう?」

そんなこと言ったら、私は俊介さんと付き合いながら、省吾のこと思ってたことになる。

そんなはずない。俊介さんとは、誠実に付き合っていた。

確かに、好意というものは、省吾に対して持っていたかもしれない。省吾といると楽しいけど、彼は自分には、手の届かない人。そうやって言い聞かせて来たかもしれない。

「まあ、いいんじゃない。省吾と向き合わなきゃ先には進めないみたいだし」

咲良は、時々、こんなふうに高いところからものを言う。

「人ごとだと思って」

「わかってるでしょう?心配してるって」

「うん」

わかってる。

「短くて思い出に残る恋をしましょうね」


「うるさいってば」
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