フラワーガーデン【アリシア編】

第4節 再出発

エリーの看病をしてから3日目の朝。

窓から差し込む陽射しに目を覚ますと、僕が寝ているソファの反対側でアリシアは静かに寝息を立てていた。

クッションを抱きしめたまま眠っているアリシアを起こさないように、そっとソファから立ち上がる。

そして、ベッドで寝返りを打つエリーの額に手を置き、熱が下がっている事を確認するとようやく安堵することができた。



ブラインドに指を掛けると、朝日が昇り、鳥たちが忙しなく朝を告げ飛び回っている。

不思議だ。
なぜだろう。
不思議と心が凪いでいる。

殺伐とした気持ちのまま、日本を飛び出したときのことが嘘のようだ……。

僕は医者になんかなりたくなかった。

いや。

正確には母が望む全ての将来を否定したかったのかもしれない。

母の望むがままの……

言われるがままの……

僕の人生。

医者になる事を否定する事で、僕を否定し続ける母を否定した。

母に嫌悪し、何度も家出を繰り返しては補導された。

アメリカに来たのだって、結局は一時の現実逃避でしかなかったはずだ。


だけど……僕はいつまで母を否定し、自己を否定し、今進み始めた医学を否定し続けるのだろうか。


いつの間にか見よう見真似で覚えてしまうくらい、僕は夢中になって父の傍らで医学に触れてきたのに……。


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