天使は唄う
愛するものを撃ち落とした天使
ここは天界。
汚れなき大地。
神が統率し、均衡が乱れることがない世界。
彼の命令で天使は動き、女神は恩恵を地上へ注ぐ。
罰も慈しみも与える。
それこそが彼女ら、女神の役割。
人間の伝承は多々あれど、今と昔は異なる上に真偽は神のみぞ知るところだ。

青い空
一面の花畑。
そこにアルテミスという美女が居た。
花に囲まれる彼女はまさに女神と呼ぶに相応しい。
彼女には姉が居た。
アポロン。
彼女もまた、美しかった。
「アポロン姉様。」
アルテミスは微笑む。
「あら。」
アポロンは微笑み返した。
「さぁ、参りましょうか。」
「えぇ。」
にこやかに微笑み合うと、弓を持って神のもとへ行った。
神が管理する地上への通路となる鏡。
そこへ入ると、舞い降りる。
彼女らが放つ弓はアポロンは男を、アルテミスは女を殺した。
それは、自然死と病死を司るものの役割だ。
どんなに善人でも、どんなに悪人でも、彼女達は平等にやってくる。
射た矢は決して外さない。
それが誇りだ。
「今日も人間は死ぬ。」
「それが摂理。」
慈しむように射て2人は言う。
「神とは残酷に運命をお与えになる。」
「あら。死なないのも考えものですわ。」
アルテミスにアポロンはふふ、と笑う。
「そうだ。」
白い羽根が舞い降りて第三者が言った。
「アズライール。」
「ふん。」
アズライールと呼ばれたものは鼻で笑う。
「死を与えられない者ほど哀れなものはない。永久に同じ世界を彷徨うだけなのだからな。」
そう言って魂を送った。
彼女は所謂“死神”のような役割をしている。
“人間に寿命を与えたもの”
そう、伝わっている。
2人が奪った魂を神の元へ送り届ける為に来たのだろう。
ふと、2人を見て思い出した顔になる。
「そういえば」
「?」
アルテミスとアポロンは顔を見合わせた。
「アストライヤーが呼んでいた。」
「珍しい。」
「何かあったのです?」
「さぁ。」
アルテミスとアポロンが驚こうが、アズライールには関係ないことらしい。
「どうせ、イリスが癇癪でも起こしてるんだろう。」
「あぁ。」
“なるほど”と2人が納得する。
「虹の子には手が焼けますわ。」
アポロンはそう言うと苦笑する。
天界へ戻ると、アストライヤーの元へ行く。
そこは裁判所のような雰囲気の建物だ。
その中の一室で騒がしい声がした。
< 1 / 20 >

この作品をシェア

pagetop