何でも屋と偽りのお姫様～真実の愛を教えて～
「ってか俺らお互いの名前も知らねぇな」

「あっ……そう言えば……」



男の人の胸の中で私はポカンと口を開けた。
名前も知らない人に私は抱きしめられていた。
その現実が私をゆっくりと突き落していく。


こんな事が柊家にバレたら……。
そう思うと身の毛がよだる。


浮気ではないものの、ハシタナイとかケガワラシイとか汚いものを見る様な目で見られるに違いない。
そうなれば拓哉さんにも迷惑を掛けてしまう。


そう思ったが何故かこの人から離れたくないと思ってしまった。
久しぶりに誰かの優しさに触れたからだろうか……。
……そうに違いない。
無理やり自分に言い聞かせ私は男の人を軽く押す。


今度は簡単に受け入れてくれた男の人。
ゆっくりと私たちの体は離れていった。


それに寂しさを感じつつも閉じ込めながら
私は鞄に手を突っ込み名刺入れを取り出した。



「如月 梓沙です」

「おっ！あの有名な会社で働いてんのかー」



そう言いながら男の人も名刺を差し出してきた。
それを両手で受け取り、目を向ける。



「五十嵐 遥斗（いがらし はると）
何でも屋……社長……？」



肩書を見ながら私は首を傾げた。


何でも屋って……。
男の人、もとい五十嵐さんを見上げれば悪戯っ子の様な顔で私を見ていた。
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