一途な御曹司に身も心も奪われ虜になりました
いや、俺はそれこそ特別だ。

偶然にも、美羽ちゃんが怪我をした時に同じ会場にいた俺は、美羽ちゃんのコーチと医師が出て行ったのと入れ違いに医務室に入り、そこで母親の胸でひっそりと泣いていた美羽ちゃんを見たのだ。

声を殺して肩を震わし泣いている姿。

その光景を見た瞬間、ポーカーフェイスは相手選手に気を使わせないためで、本当は泣き噦るほど辛かったのだと目の当たりにした。

他人事ながらこの人はこれからどうするのだろうと心配になったほどに。

でも美羽ちゃんはやはり精神的に強かった。

気持ちを切り替え、多くの資格を取得して就職活動に挑んだのだ。

テニスプレイヤーとしてだけでなく、態度の良さで名を馳せていた美羽ちゃんは引く手数多。

その中でなぜこんな変な部署のある会社を選んだのかは分からない。

だって俺ははっきり言って推進課に配属されたことにムカついたから。

俺のやりたかったことは人様の恋愛の世話じゃない。

でも本当にやりたいことをやめざるを得なかった美羽ちゃんを前にそんなこと言えなかった。

ただ『なんでそんなに資格取ってるんですか?』っていうことは入社当初聞いてみた。
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