心の距離
プロローグ
12月
「ねぇ。もし、もしも離れ離れになったらどうする?」
幼ながらに私は彼に尋ねた。これは、私の回想であって今のことではない。だからだろうか彼が返した言葉がだんだんとあやふやになって今では、かなり断片的な記憶になった。裕樹が英国に行ってはや5ヶ月全く帰ってくる気配がしない。初めはあった寂しさも今では怒りに変わりつつあった。
ねぇ、今頃何してるのよ。裕樹。
考えても仕方ないと思い、私は気分転換に部屋を後にした。
私は滞在一日目に裕樹が送ってきた手紙を読み返しているうちに8月のある日のことを思い出した。
それは、ある暑い夏の日。
私は裕樹とプールに来ていたー。

「晴れてよかったね裕樹!」
「へーへーそうですね」
「なによ、それ!」
裕樹は朝からなんとなく私に対して不機嫌であまり私と目を合わせようとしなかった。目が合ったかと思えばすぐに視線をそらされなんとも気持ちの悪い感覚に私は襲われていた。
「ねぇ、どうしたの?裕樹」
「あ?なんでもねーよ」
「絶対、嘘!」
「なんでだよ!?」
それは、もちろん私を見てくれないから。
この日のために私は少し露出の多い水着を選んだ。少しでも女の子だと意識させたかったから。けれど、そんなこと本人に言えることもなく、私は言葉を詰まらした。
「そ、それは…」
「ほれみろっ言えねーじゃねーか」
「なによ、もう!」
素っ気なく見える会話がいつもの日常だった。
そんなとき、プールサイドでチンピラに絡まれてる1人の少女を見つけた。
「ちょっと!やめてよっ」
「いいじゃん、どーせ連れはいないんだろ?」
その様子を見た裕樹はすかさず彼女の元へと行った。
「あ、ごめん、待たしちゃった?」
「えっ!?」
彼女は意味がわからないと言うように間の抜けた表情を見せた。
「なんだよ!お前!」
「え?何ってあんたらこそ何?」
「お、俺達は…」
「言えないってことは、もういいよね?変態おにーさん」
そう言って裕樹は、彼女の腕を引っ張り私の元へと駆け寄ってきた。
「わりぃ、大丈夫だったか?虹鳥」
「何が大丈夫だったか?虹鳥、よ!」
そう言うと私たちの会話に割って入るように彼女は裕樹に話しかけた。
「さっきはありがとう。
もしよければ、この後、私と遊ばない?あなたのお連れさんじゃないんでしょ?」
「はっ!?何言ってるんですか?ひろくんは」
そう言いかけた時。
「ごめん、おねーさん。俺の連れはコイツだからおねーさんとは遊べない」
そう言って裕樹は私の肩に手をかけて自分の方に寄せてきた。
「そんじゃ、さよなら。行くぞ虹鳥。」
「う、うん」
少し離れてから裕樹は私の肩から手を離し言った。
「お前さっき、ひろくんって言っただろ」
「あれ?…バレた?」
「バカッお前に言われて気づかないわけねぇだろ!」
「ごめん、とっさに。」
「まぁ、別にいいけど、ほれっこれ羽織っとけよ」
そう言って裕樹は、自分が来ていたパーカーを私渡した。
「なんでよ?」
「……」
「裕樹?」
裕樹は、私から目をそらしてから言った。
「ろ、露出が、多いんだよ…お、お前の水着…/////」
「はっ、はぁ?!もしかして、朝から私にいつにもまして素っ気なくしてたのってそのせい?!」
「そ、そうだよ。わりぃなっ!////」
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