カフェ・ブレイク
保健室には、留守番をしてくださってるはずの和田先生はいらっしゃらなかった。
……まあ、豪華弁当もプレゼントも、うまく説明できる自信がないので、ホッとした。
お弁当は洋食店で作ってもらったらしく、こってりとしたトマトソースや濃厚なブラウンソースやホワイトソースが美味しかった。

夕方、帰宅してすぐにプレゼントを開けてみた。
ブランド記名のない紙袋や包装紙にドキドキする。

え?

箱に「King's plate」の付箋……もしかしてもしかして!

そっと開けると、割れないように厳重に緩衝材が敷き詰められている。
中には、先週、私が割ってしまったコウルドンのティーカップがキラキラと輝いていた。
それも1客じゃない!
上品で優雅なカップ&ソーサーが2客と、大小のプレートが2枚。

嘘~~~!
どうしよう。
すっごくうれしい。
これ、本当にもらっちゃっていいのかしら。

手にとると、レースのように繊細な金の模様がさらに輝きを放った。
ああ……美しい。
早くこれで紅茶を飲みたい。

……よし!
私は意を決して、要人さんに電話をかけた。
あの日、要人さんにいただいた名刺には会社の代表番号が印刷されているだけだった。
が、その後で秘書の原さんがくれた名刺の裏には、手書きで要人さんの携帯電話の番号が記されていた。
……ほんっとに、原さん……怖いわ。

3コールめで、要人さんが電話に出た。
『もしもし。』

……あ……声が……義人くんに似てる……。
正確には、要人さんのほうが野太くて低いんだけど、声質とか口調とか……何となく義人くんに似てる気がしてドキドキしてきた。

「もしもし。私、大瀬戸夏子です。」
『……やっぱりそうですか。知らない番号でしたが、期待して出ましたよ。プレゼント、気に入っていただけましたか?』
「はい。本当に、ありがとうございました。あの時、要人さんが破片を持ってらしたのは覚えてましたけど、まさか同じものを探してくださるなんて……驚きました。たぶん高かったでしょう?」

電話の向こうでフッと要人さんが笑った気がした。
『すぐに見つかるとタカをくくってたら、とっくに廃盤のアンティークだって聞かされて、正直、唸りましたよ。夏子さん、イイご趣味をお持ちですね。』

「……そんな……お恥ずかしいです。身の丈に合わないのですが。」

本当は、章(あきら)さんの純喫茶マチネに同じシリーズのコーヒーカップがあったから……おそろい気分になりたくて購入したものだ。
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