恋より先に愛を知る
12月の雪







世間は12月。


クリスマスだ、年越しだ!って、
なんとなく浮足立つ最後の月。


私は1人、
リビングのソファーに座ってじっとしていた。



・・・幻覚っていうのかな?


ずっとあの男の人が
私の背にくっついて離れてくれない。


気持ち悪い声が耳の奥に響いて、
身体を触られているみたい。



嫌悪感でいっぱいになる。



そうなると何もできなくて、自然と涙が溢れてくる。



溢れた涙を拭おうともしないから、
頬には涙の跡がくっきりと残っていく。


ご飯も口にしなくなって、
時折聞こえる物音にびくっと反応するだけの毎日。




カウンセリングまであと4日。



その日、私がおかしくなったことを
知らされるのよ。



そうして、私の復帰の話がなくなる日。



12月5日。



私にとって、特別な日だったのに・・・。



家にいるとあの男の人がくっついてくる。



たまらなくなって外に飛び出しても、
それでもあの人はくっついてくる。



振り返ると、ゆっくりと私の後を追ってくるの。


後ろを振り返りながら、逃げるように走ると、
誰かとぶつかった。



「すいません!」


「・・・あかね?」


「・・・海斗・・・」


息を整えながら顔をあげると、
そこにはびっくりした様子の海斗が立っていた。


腕の中には、猫のハルさんがしっかりと
抱きかかえられていて、私をじっと見つめている。



途端に涙が出てきて、それと同時に身体がふらついた。



「おい、大丈夫か!?」



私を心配した海斗が、私の身体を支えようとした時だった。







『大丈夫。何もしないから』





「いやぁ!!私に触らないでぇー!!!!」






「あかね・・・?」


あいつに、重なる。


あの男に、重なる。



その手は海斗のものなのに、
全てがあいつに見えてしまう。



追いつかれたと思った。



あいつが来たと思った。



あいつに触られると思った。




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