君色のソナチネ



拝啓、純怜、お母さんです。


元気ですか?


今あなたは何をしていますか?


どんなピアニストになっていますか?


お母さんは今、まだまだ小さくて手のかかる、愛しくてとっても可愛い、ピアノを弾き疲れて寝ている貴女を膝の上に抱えながら、未来の貴女へお手紙を書いています。


ピアノの才能を持って生まれた貴女を将来困らせないように、今貴女にピアノの全てを、ピアノと共に一生生き抜いていく術を、私が生きてきた全てで必死になって教えているところです。


お母さんはね、本当は貴女に違う道に進んでもらいたかったの。


もっと自由に、もっと羽ばたける世界へ。


でもそう思っていたのは、私の我儘だったのね。


貴女はもう既に、私のお腹の中にいる時からピアノと共に生きていたんだから。


我儘だと悟った時、母親である前に、貴女のピアノの師匠にならなければならないと心に決めました。


いつも厳しいお母さんを許してね。


貴女がなかなか弾けなくて怒る時、私も胸が張り裂けそうです。


怒っても、厳しくしても、いつも貴女を愛しています。




もしもお母さんが何か病気をしたり、事故にあったりして貴女の前からいなくなったとしても、今貴女の事を心から愛しているということを、大人になった貴女に伝えることができるように手紙を書きました。


もし、そうなったとしても、天国でいつも貴女の幸せを願い、いつも貴女の音楽を聴いて楽しんでいると思います。



純怜は今幸せですか?


お友達、どんな子かな?


彼氏はできた?


いつも笑ってる?



これから先も、貴女の側で、貴女の成長を見守って行くことが出来ますように。

純怜の花嫁姿を見る事が出来ますように。

貴女の赤ちゃんを腕の中に抱けますように。


くれぐれも体調に気をつけてね。


ずっとずっと純怜の幸せを祈っています。





ーーーー純怜のお母さんより



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