たまごのなかみ
クリスマス【小咄出張版】
「楽しかったね~」

 イルミネーションの輝く街道を歩きながら、彼女が言う。
 先程まで会社の同僚とのクリスマスパーティーだった。
 比較的若い者主催だったので、簡単なプレゼント交換もあったのだが。

「課長は何貰ったの?」

「メモ帳。ほんと、お前のじゃなくて良かった」

「何でさ。うさちゃんブランケットだよ? 可愛いじゃん」

「阿呆。三十男にそんなもん似合うかよ」

 幸い自分には当たらなかったが、三十路の男はもう一人いる。
 あいつに当たってませんように、と思いつつ、彼は少し前でぶーたれる彼女を見た。

 クリスマスのイルミネーションが輝く街道はカップルでいっぱいだ。
 通りの花屋はラッピングに大わらわ。
 通りには花束など抱えている女子はいないというのに、不思議なものだ。

「なぁ。お前もこういうときには、花とか貰いたいもんなのか?」

 彼はそういうサプライズは苦手だ。
 少し前に会社の部下から聞いた『女の子はいきなり渡される花束とかが好きなものだ』という言葉を思い出し、イルミネーションにはしゃぐ彼女に聞いてみる。

「え~? お花かぁ。嫌いじゃないけど、ぬいぐるみとかお菓子のほうが嬉しいかな」

 予想通りの答えに、彼は、やっぱりね、と頷いた。

「でもね」

 彼女が振り返り、じ、と彼を見る。

「課長がくれるものなら、何でも嬉しいけど」

 そう言って、えへへ、と笑う。
 彼は、ふ、と息をつき、彼女のすぐ前まで歩を進めると、何かをポケットから取り出した。

 彼女の目の前に突き出した拳を少し緩めると、しゃら、と細い鎖が垂れ下がった。
 銀色の細い鎖に、小さなダイヤが一つついている。

「わぁ」

 目を丸くしている彼女の首に、彼はそれをつけた。

「……え、いいの?」

「いいも何も。お前のために買ったんだ」

 素っ気なく言って、さっさと歩き出す。
 彼女は少し下を向いて、華奢なネックレスの感触を確かめていたが、慌てて彼を追った。
 横に並ぶと、そのままぺとりと彼の腕に取り付いて、彼を見上げる。

「ありがとう。課長、大好き」

「……礼は帰ってから貰うぞ」

 少し照れたようにイルミネーションを眺めたまま、彼は、ぼそ、と呟いた。



*****終*****
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