それだけが、たったひとつの願い

8.自我を捨てて

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「由依をどこにやったんだよ! 隠したのはわかってる。居場所を教えてくれ!」

 四年前、俺は人生で一度だけ本気でショウくんに対して怒りが湧いた。
 自分よりさらに上背のあるショウくんの胸倉を掴み、大声で怒鳴ったのを今でもはっきりと覚えている。

 だけどショウくんは冷静な顔をして、「知らない」と言い張った。
 それは嘘に決まっている。
 由依が突然いなくなった理由も居場所も本当に知らないというのなら、捜さないのは不自然だろう。
 
 だから裏でショウくんが糸を引いているのだと、証拠はないが俺にはわかった。
 ガキのころからずっと一緒にいて兄弟同然なのだから、その性格は知り尽くしている。

 マンションからは由依の荷物が消え、実家にも帰った様子はなく、バイト先にも行ってみたがすでに辞めていた。

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