それだけが、たったひとつの願い

9.願いの行方

*****

 上森さんはあのあと、各方面へ謝罪したり打ち合わせを重ねたり、かなりの後始末に追われていた。
 もちろん私も微力ながらサポートしていて、毎日残業になっている。

 結局病室では、あのあとすぐに看護師さんが来てしまい、ジンとはロクに話もできずに別れてしまった。

 力強く抱きしめられ、彼のぬくもりを感じて四年ぶりに胸が高鳴った。
 だけどそれ以上の進展を期待してはいけない。
 きちんと彼に謝れなかったのは、心残りではあるけれど。

「由依ちゃん、今日はもう上がりなよ」

 定時を一時間ほど過ぎたころ、疲れている私に上森さんがやさしく声をかけてくれた。

「でもまだメールの送付が終わっていないのがあるので、もう少しがんばります」

 たいしたサポートは私にはできないが、上森さんには迷惑をかけたのだから出来る限り協力したい。

「いいよ。俺がやっとくからたまには早く帰って。それに由依ちゃんにはお客さんが来てるんだ」

「私に?」

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