それだけが、たったひとつの願い
「由依、俺もコーヒー飲みたい」

 ケトルを見つめつつお湯が沸くのをボーっと待っていたら、突然人の気配がして振り向く。
 するとそこには、起きたばかりのジンの姿があった。

「おはよう。ごめん、起こした?」

「いいよ。俺は夜型だけど、今日は早めにここから脱出しないと捕まるから」

 ジンの言葉を聞いて、まさか警察が捕まえにでも来るのかとおかしな妄想をしたものの、まさかそんなわけはないと思う。
 朝っぱらから冗談を言ってるのだと軽く流していたら、ジンが洗面台のほうへ向かった。

 リビングの分厚いカーテンを開けると、まぶしい朝日が差し込んだ。
 今朝は気持ちのいい晴天で、窓の外は空気が澄み渡っているのかくっきりと景色が見えたが、タワーマンションの最上階からの眺めは、さすがに見事だった。

 リビングに戻ってきたジンは、先ほど私が目にした人物とは別人のようにシャキッと気合いが入り、心なしか顔の彫りも深くなった気がする。

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