ビタージャムメモリ

「香野さんがショートカットを作ってくれたようなものです」

「たまたまです、あの」



そうだ、と私は下山さんの話を聞いて思いついたことを話した。



「これから、発表会に向けた定例会を行いたいんです、週一で。全員集まるのが厳しければ、TV会議でもいいので」

「いいですね、必要だと思います。プロジェクトの定例会の前後でしたらこちらはほぼ全員揃います、ただそれは隔週なので」

「私がそちらに伺うことも可能ですし」

「都度相談しましょう、初回はちょうど今週、できますね。水曜に全員本社に来る予定です」



手帳を開いて先生がうなずいた。

先生と毎週、必ず会える。

私は気持ちが高まり、そして歩くんに言われたことを思い出し、えいっと勇気を振り絞ってみた。



「あの、その後、食事でもいかがですか」

「え?」



きょとんとされてから、言葉足らずだったことに気づく。

わああと動転しながら、慌てて言い添えた。



「あの、もちろん、皆さんでって意味です、せっかくのキックオフですし。このへんけっこういいお店あるので、私、ご案内します」



…下心が透けていただろうか。

本当なんだけど。

先生たちの事業所のある場所は、都心から外れた場所にあり、楽しみどころがあまりないって聞く。

だからこういう機会に、おいしいものでも…。

そう思ったのも、本当に本当なんだけど。


なんだけど…。



「お気遣いなく」



うつむいた私に降ってきた言葉は、ぐさっと心を刺した。

スカートを見つめて、どう取り繕えばいいか探す。



「あっ、あの、そうですよね…」

「仲間たちが喜ぶと思います、ちゃんと自分たちで払わせますので、部署の費用などは、どうか用意しないでください」

「えっ?」


< 34 / 223 >

この作品をシェア

pagetop