ビタージャムメモリ
整った横顔が、まっすぐで白い煙草をくわえて、煙を吐く時には、少し目を伏せる。

綺麗。

私はなめらかなスコッチで心地よくぼやけた頭で、その姿をじっと見つめた。



「先生、吸われるんですね…」

「先生?」



その場の全員が私を見た。

またやった…。

当の巧先生は、さすがに二度目だけあって切り替えが早く、恥ずかしさに縮こまる私に、笑いながら助け船を出してくれる。



「前も間違えましたね、僕に似た教師でもいましたか」

「嫌だなーこんなおっかない先生」

「先生とか、そういう言葉が出てくる時点で若いよね、香野さん、大学は都内?」

「は、はい…」



つい大学名を告げた時、もしかして先生が何か反応するかと、はっとした。

けれど、彼は変わりなく煙草を吸っているだけだった。


後から思えば、私はその時、完全に酔っていた。

いろんないいことが続いたせいで浮かれてもいて、調子に乗ってもいた。

だから間違った。



「あの、眞下さん、私の大学で、教えてらっしゃいましたよね?」



対面のふたりは互いの会話に夢中で聞いていない。

それくらいは確認した末の質問だった。


もしかして、私を思い出させることなく、当時の話をできるかもしれない。

もしかしてもしかして、万が一思い出されてしまったとしても、今の私と昔の私は違うと、ちゃんとそう認識してもらえるかもしれない。

そんな思い上がりと油断がさせた、愚かな質問。


私は先生が一瞬で警戒したのをはっきりと感じた。

煙草を持つ手がぴくりと止まり、ゆっくりとこちらを見る。



「…あの」

「どうしてそれを?」



鋭い声。

私は完全に萎縮し、その場を取り繕って別の話題を探そうとした。

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