うそつきハムスターの恋人
売り上げのことやディスプレイについてしばらく話したあと、夏生はスタッフルームを出て、本社に戻っていった。

「スーパーバイザーの水嶋さんって、かっこいいですよねぇ」

入れ違いで、休憩に来たスタッフの女の子がうっとりと言う。

「彼女とかいるのかなぁ。店長はどう思います?」

「……さぁ? どうかなぁ」

「え? あんまり興味ないですか? 店長のタイプじゃない?」

私は笑って、「そんなことないけど」と返す。

「あ、それ今月のSVシートですか? 見せてもらっていいですか?」

スタッフの女の子は私が渡したSVシートを見て「Bかぁ」と悔しそうに言った。

「落ち葉か。気が付かなかった。悔しいなぁ。でも、接客の項目は五点ばっかり!」

スタッフは嬉しそうに言うと、小さくガッツポーズをした。
私はそんなスタッフを見て微笑む。

あれから一年が経った。
あのあと、メイズを退職した私は、坂口夫妻がオーナーをする、この店の店長になった。

上司にかけあって、約束通りこの店の担当スーパーバイザーになってくれた夏生は、
スタッフの採用面接やオープニングの準備など、大変な時はいつも支えてくれた。

フランチャイズ店の店長である私と、担当スーパーバイザーの夏生がつきあっていることは、スタッフたちの手前、内緒にしている。
オーナー夫妻は知っているけれど。

いい店は作れる。
ひとりじゃなくて、みんなで。

今日も、店の中はスタッフとお客様の笑顔が溢れていた。


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