うそつきハムスターの恋人
課長に呼ばれたのは、その日の午後のことだった。

「大澤さん、ちょっと」

手招きをされて、私は席を立った。

課長は少し眉にしわを寄せてあごにかるく指先を当てていた。
「さて、これはどうしたことだろう」という顔だ。

「大澤さん、店舗開発部の奥田部長って知ってる?」

てっきり書類にミスでもあったのだろうと思っていた私は、思わずへ?と間抜けな声を出してしまい、あわてて咳払いをした。

「奥田部長……ですか?」

店舗開発部、奥田部長。

奥田部長……。

「あ、もしかしてだんないさんですか?」

一ヶ月ほど前に、メール便を届けた人だ。
夏生と出会ったきっかけになった人。

「そうそう、だんないさん。あのね、そのだんないさんが大澤さんにちょっと来て欲しいって。心当たりある?」

私は首を傾げた。
だんないさんとは、あの日以来会ってもいないし、あの日だってメール便を届けてお礼にキャンディをもらっただけだ。

「なんだろうね。僕もわからないんだけど、とりあえず十二階の第三会議室に行ってみてくれる?」

はい、と返事をすると、課長が「そんな心配そうな顔しなくても大丈夫だよ」と言ってくれた。

「怒ってる感じじゃなかったし」

それにしたって。
全く関わりのない部署の部長に呼び出されるなんて。

店舗開発部は、直営やフランチャイズの新規店舗の出店に携わる部署だ。
物件探しからオープンまで一貫して行っていると聞く。

その部長がなぜ私を呼んでいるのだろう。

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