愛してるなんて言わないで

「ねえ、ママ…

パパは別の赤ちゃんのパパになったんだって。」


「うん。知ってる。」

「けどね、パパはこれから会えなくても

会わなくても

ずっとずっと僕のパパなんだって。」


「そう…。パパがそんなこと言ってたの?」

「うん。だから僕、嬉しいよ。」

「パパが別の家族と一緒にいても…?」


「うん!

何かあったらパパはここにいるからって

パパからは会いに行けないけれど、僕が会いたいと思うなら、パパはいつでもここにいるって言ってたよ?」



「そう…。」


すると、怯えるような瞳で私の手をキュッと握りしめる。


「パパの話をしたから

ママ…

怒ってる?」


「えっ?

…なんで?」


「だって、なんとなく。」




「怒らないよ…」


怒れるわけがない。

だって

颯太にとって、玲二がパパである事実は変わらない


今までもこれからも。


でもきっと…


颯太が離婚してから今まで


私に自分からパパ話題をふらなかったのは…


こうして、私を気にかけてくれていたからなのかもしれない。




「ねえ、パパは僕を愛してるんだって。

僕、嬉しかったよ。」



何も言えずに


頷いた。






「愛してる」欲しい時にくれなかった言葉。


今さら…


愛してるなんて…


言わないでくれたなら…


私はずっと


玲二だけを悪者にして生きていけたに違いない。



悪者でいてほしかった。


だって

もう二度と関わらないはずの人だったから…。



それでも

最後に


颯太に


父親としての最後の仕事をしてくれたこと。

私じゃ、伝えられなかった父親としての思いを…


颯太を可哀想な子。で終わらないようにと…


最後の仕事をしてくれたのなら…




「愛してる」って伝えてくれてありがとう。



遅すぎた愛の言葉。


側に居る時に伝えてくれなかったのは


口下手な玲二の性格を


忘れてしまって


あるはずの愛に目を逸らしていた私のせいだからと

思わせて欲しい…。




颯太を愛してくれて


ありがとう…。



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