嘘から始まる恋だった

恋をした人間の執念を見た気がした。

ーーーーーー

定時を過ぎ、更衣室で着替えを済ませていると…スマホが鳴る。

「……もしもし」

『麗奈』

電話口の向こうから少し掠れた甘い声で私の名前を呼ぶ高貴。

「……高貴⁈どうしたの?」

『仕事終わったんだろう?』

「うん…今から帰るところ」

『気をつけて帰ろよ』

「……大丈夫だよ。タクシー使うから心配しないでよ」

『…側にいてやれないから心配なんだ』

キュンと胸がときめいて、頬が緩む。

「心配してくれてありがとう。気をつけて帰るね」

『着いたら、連絡してくれ』

もう、どこまで心配症なのだろう⁈

「……わかったよ。後でね」

『…あぁ、本当に気をつけて帰ろよ』

切れたスマホを眺め、タクシーで帰るから心配ないのにと心でつぶやいていた。

「麗奈…池上部長から?」

「うん…」

「本当に麗奈が大事なのね…」

「そんなことないと思うけど…」

クスッと笑い、私をからかう優香は普段の彼女に戻っていた。

「部長、明日、帰って来るんだよね⁈」

「うん…夜になるみたいだけど…」

「夜ね…」

「どうかした?」

「こっちのことよ…それより早く帰らないと、部長からまた連絡くるわよ」

「そうかも…」

優香と2人で会社を出ると、既に待っていたタクシーが横付けしてくる。

「明日、またね…おやすみ優香」

「うん…おやすみ…麗奈」

タクシーに乗ると行き先も告げてないのに発進しだす。

朝、同様10分もかからずにマンション前にタクシーが止まり、エントランスに入るとコンシェルジュが慌てて出迎えてきた。

「花崎様、おかえりなさいませ。予定の時刻より少し遅いので心配いたしました」

「すみません」

高貴と電話で話していたせいだと言えず、とりあえず謝った。

「いえいえ…無事にご帰宅していただければいいのです」

安堵したように表情が和らぐコンシェルジュ。

「明日も、同じタクシーを手配してあります」

明日も⁈
はぁ〜とため息をつきたいところを我慢して笑顔で

「ありがとうございます」

お礼を言いエレベーターに乗り込んむと自然と大きなため息をついていた。

もう1日の我慢…
自分に言い聞かせて、高貴に電話するとワンコールで出る男。

「ちゃんと着いたようだな」

「大人なんだからちゃんと自分家に帰れるよ」
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