そのキスで教えてほしい
その誘惑するような瞳に惹かれてしまう自分が、こわい。

味わったことのない雰囲気。
崎坂さんの余裕が私の何かを煽る。

惑わされてはいけないと、唇に力を入れてなんとか顔をそらした。
瞬間、そばで笑われたような気がする。

からかわれた。
そう悟った私は、襲ってくる羞恥に堪える。

やだ、もう……なんなの。
どうしてこんなに気持ちを乱されてしまうのだろう。

あれがキスだったとして、どうして崎坂さんは私の唇に触れたの?
気になる、聞きたい、けれど唇が動かない――


すっと崎坂さんが離れたことに気づき、首を動かして隣を窺うと、彼はドアを開けて外に出ていった。

だから私も慌てて車から降りる。

崎坂さんが後部座席からスーパーの袋を下ろし、渡してきた。

「す、すみません」

「いいえ」

微笑む崎坂さんは普段通り。先程の会話なんて、まったく気にしてない。

それをなんだか不満に思う自分がいる。
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